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【2024/12/04 02:19 】 |
カードバトラー!

             「カードバトラー・ナアク!」
 
 
 いろいろ紆余曲折を経て、勇者ナアクとその仲間二名は魔王の城にたどり着いた。今、長きに渡った死闘の最終決戦が始まる。

 異形の門を開き、薄暗い螺旋階段を駆け上り、ついに勇者たちは魔王の間にたどり着いた。
「魔王ミッシェル、貴様を倒しに来たぞ!」
けたたましく開かれた扉の先には、数百人の喪服姿の悪魔たちが、ハンカチで涙をぬぐい、数珠をジャラジャラと鳴らしながらすすり泣く。一段高いところに作られた木製の台座の上には大型の棺が置かれている。そしてそれには魔王ミッシェルの遺体が……。
 たくさんのお花に囲まれたミッシェルは、安らかな顔で永久の眠りについている。
「魔王、死んじゃってるよ!!」
ナアクの怒号が木霊する。一人の老いたミイラがナアクたちのもとに近づいてきた。
「お静かに、悲しいのはあなただけではないのですよ。皆、あなたと同様に王の死を嘆いておるのです。」
紳士的な態度と穏やかな口調でナアクを諭すミイラ。
「悲しいって言うか、ひたすら無念だよ!」
すっかり戦意を失ったナアクを女魔法使いのエミリアが慰める。だが、不幸は重なる。武道家のタカノブが腹筋のやりすぎで爆発してしまったのだ。
 だが、ナアクに悲しんでいる暇などない。「コン・コン・」乾いたノック音が勇者専用のVIPルームに響いた。
「私です、ナアク様。ミイラのゴンモーです。ナアク様にお願いがあって来ました。」
「そうか、よし、帰れ。」
Dryな返答で切り返すナアク。「ガタンッ!」
「そんなこと言わないで、ナアク様!」
つい先ほどまで無人だったベランダから一人のゾンビが叫んだ。「バン!」突如開く洋服タンス。
「いけず!話しくらい聞いてくれてもいいじゃない!」
「いじらしい人!」
ケルベロスがそこから無理やりに二つの首をひねり出し、叫ぶ。
「……いいだろう、入れ。」
「ギ、ギィィ……」わずかに開いた扉からミストが地を這うがごとく流れ出る。「ギィィィィィィ……」光の中に一つの影。「カツ…カッ…カツ…カツ……ン
霧を押しのけ、光に染まる影。黄色の眼光がジッ……とナアクを突き刺す。
「………………。」
不機嫌なナアクから見下すかのような視線が帰ってくる。
「………………。」
しばしの沈黙、演出のために用意した霧はすでに晴れ、証明もすでに落ちている。ナアクの視線の先にいるのは一人の少年。12、3くらいの年頃か。「トン・トン」軽快に少年の肩をたたくゴンモー。
「若さん、何か言わないと。」
「え?」
「ほら、自己紹介、自己紹介!」
意を決した表情でうなずく少年。
「わ、我こそは魔王なんだぞ。」
眉一つ動かさないナアク。
「これ、なに?」
少年を指差しながらゴンモーに問う。
「あの、だからね。この子が跡継ぎ……つまり、魔王様のご子息なのよね。」
「そうか……。」
そよそよと穏やかな風が、部屋をやさしく通過する。照れくさそうなゴンモーの笑顔が嫌に愛らしい。
 無言で全てを悟り、魔王を退治するためミッシェルの息子、キンバムを鍛えることにしたナアク。新たな魔王を育て上げ、夢の晴れ舞台を演出しよう!
 
――五年後
 雷の降り注ぐ荒野、一人の剣士と一体の悪魔が対峙していた。
「立派になったな、キンバム。お前はもう常識を超えたパワフルさだ!今のお前はまさに、魔王と呼ぶにふさわしい。ついに、ついにこのときがきたのだ!!!」
誇らしげに語りかけるナアク。拳を握る手も興奮で震える。
「はい。ここまで強くなれたのも、一重に師匠のご助力のおかげにございます。しかし師匠、ひとつ気になることが……。」
成長したキンバムは少しうつむく。
「何だ。」
「はい。確かに私は強くなりました。魔王としてもやっていけるような気もします。ですが私が魔王ならば、あなたは悪魔大皇帝クラスの実力があると思われます。」
「何が言いたい。」
「はぁ、つまり。師匠のほうが魔王にふさわしいのではないのかと……。」
一陣の風が吹きぬけ、荒野の乾いた砂が舞う。
「……そんな気もする。」
少し寂しげに呟くナアク。こうして、新☆魔王ナアクが誕生した。
 そして、その後いろいろとナアクがいろいろしてキンバムのああいうのがいろいろあって、ついにキンバムはナアクを討伐することにした。
「師匠……いや、魔王ナアク!待っていろ!!」
                          前編 完
後編
 いろいろと紆余曲折を経て、ついに勇者キンバムは魔王の城にたどり着いた。なつかしの故郷……キンバムの脳裏に様々な思いが駆け巡る。異形の扉を開くと、そこには巨大なアリーナが待ち受けていた。「ワァァァァァァァ」「ウォォォォォォォ」大歓声の中、闘技フィールドの中央では二人の男が激闘を繰り広げている。
「キャロット、キャロットだ!」
「やめろ、やめろ!」
鼓膜を絶え間なく揺さぶる大音量の中、一人の老ミイラがキンバムに近づいてきた。
「ようこそ、若様。」
「ゴンモー!……いったい、これは?」
戸惑い、周囲を見渡す。
「カードバトルにございます。」
「なに?」
「ですから、カードバトルにございます。」
状況がつかめない、キンバムは呆けてしまった。
「息子よ……」
「!!この声は、まさか……!」
驚愕の表情のキンバム。
「息子よ、魔族の名において、このようなときはどう動くべきだ?」
厳格な父の声は穏やかで、しかし生前となんら変らぬ威厳を示している。
「お、親父……あぁ、解っているさ!」
あふれる涙をナイアガラにして、少年は駆け出した。
 
『次のバトルはナアク、VS前回大会チャンピオン、ゴンモー!!』
「ウォォォオオオオォォオオ!!」、「ドワァアアアアァアァァァ!!」、大観衆の大歓声が震度10の極限地震を巻き起こす!
「くっくくく……ナアク、この私に挑むなど片腹痛いわ!」
自信に満ちた表情で意地汚らしい笑みを浮かべるゴンモー。思いつめたような表情のナアク。
ナ:(負けるわけにはいかない……
死んだあいつのためにも……)
“ナアク、筋トレで最も大事なことは休息のとり方だと思うんだよ。君はどう思う?”
目を見開き、ゴンモーを睨みつける。
「俺は、負けない!」
観客席でナアクを見守る二人。
「負けないで、ナアク……。」
祈るように呟く女魔法使い。そして大応援団に指示を送るナアク応援団長キンバム。「グォォォン」デュエル開始を告げる銅鑼の音が鳴り響く。
「いくぞ、ゴンモー!」
今、最後の戦いが始まる……。
                                     完
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【2010/05/25 01:12 】 | その他のストーリー | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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