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【2018/10/16 17:58 】 |
33ストーリー (1)
 
    ニュシュタナ



 
1.誕生。
赤色の軍団と緑色の軍団との終わりの見えない戦争。その騒乱の最中、彼は日の元に産み落ちた。
それは悲惨な始まりであった。母体は最後の瞬間まで異様な悲鳴を上げ続け、穴は元の5倍にまで引裂けた。逆子であったが頭部が出ても泣き声一つ上がらず、ただただ、母体の断末魔だけが響き渡った。
母体の悲鳴が止んだ頃、彼の全身はこの星の大気に晒され、その場にいる皆が声を失っていた。目の前には息絶えた母の姿と、一切の呼吸もしない赤子の姿があるのみ。彼の父はその場で崩れるように膝を着き、妻の名を呟きながら自らの頭蓋を両の手で締め付けた。
 
 母親と子供の遺骸は火葬にされた。参列した人々は皆涙し、呆然と立ち尽くす父親にどうして声を掛けようかと気を揉んだ。父親は、昨日よりも幾つか老けた表情でジッと、今はもう見慣れてしまったはずの人が燃える様を眺めていた。
 
「オンギャァ……」
 
 静かな葬儀の空気が凍りついた。燃え盛る炎の中から聞こえる赤ん坊の泣き声……。燃え続ける炎、しかし赤ん坊の泣き声は止まらない。人々は暫く我を疑って黙りこくっていたが、しだいに現実を認めて震え、悲鳴とも取れない声を上げ始めた。火力を調節する係りの者は、その役を忘れてその場に腰をついてしまった。
 やがて炎が静まり、中途半端に燃えた女の遺体と、それの上で元気に泣き続ける健康そうな赤ん坊が姿を現した。この時点で多くの参列者は恐怖のあまり、すでにその場から逃げるように立ち去っていた。
父親はゆっくりと赤ん坊の元へと近寄った。鞘からサーベルを抜き、汗ばむ手のひらで柄をしっかりと握り締めた。
「この、悪魔がっ!」
 父親はサーベルで妻の遺骸ごと赤ん坊を貫いた。目を見開き、眉間に深いシワを刻んだその表情は、それこそ悪魔のような形相であった。
 サーベルは確かに二人の急所を貫いたが、その一撃で何かが変わることはなかった。遺骸は変わらず死に体のままであり、赤ん坊は何事も無いかのように相も変わらず、泣き声を上げ続けていた。
 サーベルを突きたてられたまま、母親の遺骸の上で泣く我が子。その姿を見て、父親は頭を掻き毟って泣き叫ぶ。その泣き声は川を二つはさんだ先にある敵陣にまで響き渡り、敵兵を竦みあがらせるほど悲壮なモノであった。
 
2.人外。
 人々はその少年を忌み嫌った。それは父親にしろ例外ではなく、少年とまともに口をきく者はまったくの皆無であった。
 少年はその存在自体が不吉とされ、誕生の後に7回も死に十分な行為をされた。しかし、一度として彼が息絶えることはなく、その度に不気味に笑って皆の顔をジッと見つめるだけであった。
 不吉ではあるが、その生命力はこの戦乱の世に無視できるものではなかった。ただ置き去りにしてしまうのも勿体ないので、彼は戦場の様々な場面で使われた。
初期の頃は、彼の首を切り取ってそれを敵陣に投げつけ、それでも生きている少年の首を見て動揺した敵陣に攻め込む奇襲作戦が行われた。敵軍があまり動揺を見せなくなるまで、何度も彼はそれに使われたが、一度として嫌がったり泣いたりすることはなかった。 いつでも少年は笑っていた。
 次に少年は初心者兵士の訓練に使われた。人を切ったことの無い兵士に彼を切らせて、「人を切る」という行為に慣れさせるためだ。この実習は幾度か実行されたが、切られても笑い続ける少年を見て、逆に恐怖を覚えて使い物にならなくなる者が多数報告されたので中止となった。
 兵器の実用効果の実験にも少年は活用された。新しい兵器ができると、少年で人体に及ぼす効果の程を調べるのだ。しかし少年が痛みを感じない体質の為、その効果の程がいまいち解らず、あまりやくにはたたなかった。
 何度も実験は行われ、少年はその度にバラバラにされたり切り刻まれたりした。だが彼の反応はいつでも同じ、笑顔であった。
 
3.疎外。
 窓の無い、冷たく湿った石造りの独房が彼の部屋。餌やりや掃除はとくにしなくて良いので、彼を飼うのは楽なものだった。不潔な部屋の壁と天井には、びっしりとカビが生い茂っていた。
少年の知能は生まれつき常人より低い。それに加えて周囲が彼に一切の教育を施さないという環境。彼がそれなりの知性を持つことを人々が良く思わず、今のままの従順な道具にしておきたいと考えていたからだ。
独房の中で少年は今までの人生の大半を過ごしてきたが、実のところ彼は人々が思うほど無感情ではなかった。彼は人々が見ていない独房の中で、人々の声が聞きたくて鉄の扉に耳を近づけたり、眠りの中で冷たい人々の表情を思い出して涙を流したりもしていた。
少年は人形でも機械でもない。感情の無い人間でもない。苦しみを感じない、恐怖を知らない冷徹な人間でもない。
彼は普通、何処にでもいるような少年なのだ。ただ、痛みを感じない不死身な体を持つだけ……。それが少年の心にどれほどの意味を成すのであろうか。
体は不死身でも、心までは不死身ではない。死ななくとも、恐怖を感じないはずは無い。
誰からも人間として見てもらえないとき、少年の心は抉れてゆく。誰かが憎しみを抱いた瞳を向けた時、少年は竦みあがって恐怖を感じる。
自分が他の人々とは違うということくらい、理解している。それは体の構造の話ではなく、どのように扱われるかという他人の態度の違い。
ヒト以外の動物として穴倉の底に隔離され、高みにある柵越しに見物される気分。人々は彼に石や木の枝を投げつけて楽しそうに笑っている。人々の左手にはお菓子が握られていて、それを頬張る様子は幸せな表情に満ちている。穴倉の底から見るモノはどれもうらやましいけれど、少年はそれを見ることしかできない。お菓子も、その場所も、幸せそうな笑顔さえも……。
とどかない光でも、せめてそれを見つめていたいものだ。少年は苦しみや恐怖を受けながらも、それでも人々の笑顔を見ていたいと願う。どんな形でも、たとえそれが人権の無い攻撃的なものであっても、それが少年の得ることができる唯一の幸せ。
人々の前で少年はいつも笑顔を見せている。少年が人々の前にいる時、それは人々が彼を道具として使用する時。その時だけ、少年は孤独ではなくなるから――。
 
4.最後の時。
 彼が十二年の歳月を経験した頃、彼を所持している赤色の軍団は戦線を後退させ始めた。
少年は最前線に配置されていた為、移動を余儀なくされた。警備の兵士と共に、馬車に揺られて山道を進む。少年は隣に座る兵士を見ながら、不気味な笑みを浮かべていた。
大抵こういった場合、気味悪がって少年を殴るか顔を背けるかするものだが、どういったわけかこの兵士は少年の無邪気な瞳を真っ直ぐに見つめ返していた。こうして長い時間自分の目を見られるなんて初めてのことなので、少年は珍しく困惑した表情を見せた。
その様子も兵士はジッと見つめ続けた。少年の体は傷だらけだが、この傷も明日になれば消えてなくなっている。しかし、そうだとしてもやはりその姿は痛々しい。
兵士は悲しそうな表情を浮かべると、懐から一枚のモノクロ写真を取り出して少年の手に握らせた。始めてみる写真に興味津々な様子でそれを眺める少年。匂いを嗅いだり、舐めてみたが特に美味しくは無かった。
兵士はそっと写真に指を指した。一枚のうすっぺらな写真の中で、一人の若い女性が微笑んでいる。長い髪が特徴的な美しい女性。
その女性を見ていた少年の胸に、熱いものがこみ上げてきた。
それは本能か、直感か。少年は気づけば大粒の涙をいくつも流していた。揺れる馬車の音に掻き消されてしまったが、彼は呻くような声を上げて泣いた。少年がその兵士の前で涙を見せるのは、少年が生まれたあの日以来のことだった。兵士は少年の横で、彼と同じように涙を流している。
少年は泣き喘ぎながら写真を大切そうに抱きしめた。その少年を、兵士が強く抱き寄せる。この時兵士は親であることを、少年は人間であることを初めて自覚することができた。
 
 山道も下りに入った頃、先行している部隊が騒がしくなった。兵士は悪寒を感じ、馬車を停止させた。山道は静かだが、やはりどこか空気が硬い。兵士が警戒していると草陰から剣を振りかぶった敵兵が飛び出してきた。
「行軍は筒抜けかっ!」
 兵士もサーベルを抜き、敵兵との戦闘が始まった。鉄と鉄が当たりあう音が周囲に響く。掠めた剣先が兵士の頬を裂き、血しぶきが飛んだ。その一撃を受けて、兵士は体勢を崩し、その場に片手を着いた。
 少年が「あっ」と声を上げて飛び出したと同時、敵兵の剣が兵士の心臓を貫いた。声も無く、天を見つめる兵士。少年は今まで何度も人が死ぬところを見てきた。だから彼は知っていた、自分以外の人間は胸を貫かれると死ぬということを。
 誰が死んでも動揺すらしたことのなかった少年が、絶望のあまり顔を両手で覆った。そして、その場で膝を着いて叫んだ。敵兵が彼の姿に気づき、近寄ってきても、彼の目には胸を押さえて悶える兵士の姿しか見えなかった。
 敵兵の剣が少年の喉元を貫いた。しかし、少年の様子に変化は無い。
今度は大きく振りかぶり、敵兵が少年の首を刎ねた。ゴロリと首が転がる。だが少年の首は叫び声を上げ続けた。
 敵兵は恐怖のあまり剣を落として失禁した。そして震える足をバタつかせて、何度も転びながら山道を下っていった。馬車はすでに逃げ出しており、その場には少年と瀕死の兵士が残された。
 兵士は苦しみながらも、懸命に這いずった。後何分生きられるかは解らない。だが、せめて最後の時だけでも、彼は父として子に伝えておきたいことがあった。
やがてどうにかころがる首の元に辿り着くと、兵士は少年の首をしっかりと掴んで目を合わせた。少年の表情は、いつもの笑顔を想像することができないほどに強張っていた。兵士は落ち着かない息を無理やり落ち着かせて少年に語りかけた。
「息子よ、私の息子よ。今まで私はお前を我が子どころか人としても扱ってはやらなかった。許せなかったのだ、お前が妻を奪ったこと。恐れたのだ、お前のその特異な体質を……」
 兵士は口から血を吐き出しながら、必死に少年に語り続けた。
「お前程不幸な者がいるだろうか? 不幸の意味すら知らずに、人ではない道具として扱われる人間が。あってはならないことだ、このような人生は……!」
 兵士の視点はすでに定まってはいないが、それでも少年は兵士に直視されている。少なくとも少年はそう感じていた。
「私の責任だ、守ってやらなかった。それどころか私まで他人と一緒にお前を疎外してしまった……。 何もしなかった私にその資格があるかは解らないが、今更ながら親としての最初の役目を果たそう……」
 父は定まらぬ視点を無理やりに定めてどうにか少年の顔を見続けようとした。親ならば誰でもそうであろう。当たり前に、我が子の顔を見ながら授けるであろうこと。
「“ニュシュタナ”、それが君の名だ。妻と、お前の母親と共に決めた。大いなる太古の大陸の名から取ったんだ。皆に、必要とされ、愛されますようにと……」
 少年は兵士の言葉の意味の半分も知らない。だが、少年は不思議と兵士の言葉を理解できた。少年の表情はいつの間にか笑顔になっていた。兵士も、気がつけば微笑んでいた。まるで少年に促されるかのように。
 笑顔を浮かべていた兵士の瞳が閉じて、少年の首を掴む指から力が抜けていく。そして、やがて兵士は何も語らなくなった。
 少年は笑顔のまま涙を流し、しだいにその表情は悲しみに溢れていった。
やっと人間として扱われたのに、やっと子供として親に甘えられたのに、やっと大切な人ができたのに――――。
「……さん、おとう……さん…………」
 涙声で繰り返されるその言葉は、少年が始めてまともに発した人間らしい言葉であった。その時、泣きわめく少年の首から突然大量の血液が噴出した。
少年の意識は薄れてゆき、泣き声もしだいに小さくなっていく。繋がるはずの首は繋がらず、塞がるはずの傷が癒えることももう無い。
 数秒後、少年の首はもう泣くことをやめた。思考も、呼吸すらも……。
 
          この日、死なないはずの少年は死んでしまった。
 
 
 
                                       E
 
 
 
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【2010/05/25 01:13 】 | その他のストーリー | 有り難いご意見(0) | トラックバック(0)
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