男 A型 163cm 43歳
主能力・特徴:破滅の鼓動(この男の心音を33回聞いた者は、即座に死亡する)
ローリング孤児院(異常児収容施設)の記念すべき100期生、その同期の中でも最高と呼ばれる能力を持つ。
いわゆる“超能力者”“エスパー”の類で、若干のテレパシーも行える(彼のテレパシーは一方的なもので、自分から伝えることしか出来ない)。ここで恐ろしいのは、このテレパシーは彼の呼吸、骨の軋み、血流の音など“身体の音”を伝えられるということ。つまり、「心音」も相手の脳裏に直接響くということである。
感覚的にその人物が今、どこにいるのかを明確に・正確に掴めればテレパシーは可能なので、モニター越しに作業をこなすことも出来る。攻撃の射程距離は「ターゲットの位置を知らせてくれる第3者(撮影係)が行けるところまで」。今の時代なら、偵察衛星の映像でも可能なので、実質上「地球上の全て」が射程距離であるといっても過言ではない。
この手の能力でよく疑問に上がるのは、「中断した場合、どのくらい時間が経てばリセットされるのか」というものだが、彼の攻撃の場合、リセットはされない。死んで始めてリセットされるのである。
ジプシーが生まれて3日後、彼の母親が死亡した。その2ヵ月後、彼の父親が死亡。その後彼は父親方の祖父に引き取られることになったが、3歳の時に病を患った彼の主治医が死亡。この頃から祖父はジプシーに不安を感じ始めた。彼が呪いの子だとでも思ったのだろう。
それでも彼を育てていた祖父であったが、やがて毎晩聞こえてくる自分以外の何者かの呼吸や血流の音に気を病んでいく。そして孫の持つ特殊な力に感づいた。しかし、それを確認し、伝える間もなくジプシーの能力により死亡してしまう。
祖父を失ったジプシーは教会下の孤児院へと移る。しかし、その数日後に施設内の孤児、当直シスター全てが死亡するという大惨事を体験する。これで唯一生き残った彼に周囲が疑問を抱くのは当然で、やがて彼の祖父が残したメモ(かつての家に置き去られていた)を確認したローリング孤児院が彼を引き取った。
生まれてから8年と10ヶ月。28人を無意識に殺してしまった時点でようやく彼は自分の力を知ることになる。
それからさらに数人の犠牲を経て、どうにかテレパシーの意識制御をモノにしたが、その頃にはすでにまともな精神ではなかった。何せ母も父も、大切な祖父も、新生活に不安を抱く彼を励ましてくれたシスター達も、不安に怯える彼を暖かく迎えてくれた子供達も……全て、「自分が殺した」という事実。8歳の子供には消化しきれないものである。
やけくそになって無茶苦茶な殺人狂にもなっただろう。言われるがまま、誰かの殺人兵器として無機的な存在にもなりえた。
その強力な力ゆえに20年もの長きに渡り隔離され、腫れ物として封印されていた彼がハンブルグという名の青年と出会えたことは唯一の救いである。そして、だからこそ彼は今、「人を殺すこと」を楽しんだり愉快がる人間ではないし、「殺す対象」をテキトウに決めたりする人間になどならずにすんだのである。
一見狂人じみたその風体も、元を辿れば心優しい内気な少年の笑顔が垣間見えてくる。
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